第5章 逢瀬その5
「たけちゃん、いい人なのにね…」
「いい人は、いい人で終わるんだよ…」
大宮はそう言うと黙り込んでしまった。
美智はちょっとマズイ事を言ってしまったかな…と、思っていた。
確かに、いい人と言われると悪い気はしないが恋愛に発展するとも思えなかった。
いい人イコール安全な人と捉えられがちだったからだ。
美智はそんな気まずい雰囲気を何とかしようと思っていた。
「たけちゃん、今度、ウチに遊びにくるといいわ…」
「え?だって旦那いるんだろ?」
「毎週出張で留守だから大丈夫よ」
「そ、そうなのか?」
大宮は少し慌ててそう言った。
そうなのだ。
美智は寂しかったのだ。
ひとりの夜を過ごすのが怖かった。
誰かと一緒にいたかったのだ。
そんな気持ちから、大宮を誘ったのだった。
二人はアドレスの交換も電話番号も交換していた。
だから、いつでも連絡は取れたのである。
大宮が話しかけてくる。
「でも、俺、花柳さんの自宅知らないんだけど?」
「あ、それなら大丈夫よ。居酒屋“まとい”って知ってる?」
居酒屋まといとは美智の家の近所にある居酒屋である。
それは、美智の住んでいるマンションから直ぐのところにあった。
「ああ、まといなら知ってる」
「じゃ、まといに着いたら電話して。迎えに行くから」
「わかった」
「よろしくね」
そう話すと二人はまた飲み始めた。
この夜、二人は善が閉店になるまで飲んでいたのである。