第4章 優柔と懐柔
してやられた、ということだ。
そうなればの居場所は、ここ、工藤邸にはなくなる。
保護解消をするつもりがないと彼は言っていた。
その赤井も、交渉に応じたと言うことだ。
有希子の言っていた「悪いことにはならないから」は、赤井との情事がなければ、そうだったかもしれない。
今の拗れた関係では、有希子の言う通りにはならないだろう。
『私は…どうすれば良いの』
「君の家に連れて帰る。セキュリティ面も強化した」
その準備を終えて、迎えに来たのかもしれない。
『わかった…』
身体の拘束は解かれた。
テーブルに置かれたバッグを手に取り、降谷の後に続く。
リビングにいた夫妻へ頭をさげる。
「あ〜そうそう、これね、返しておいてってしん…」
『しん?』
「信じられないわよねぇ、携帯を没収するなんて〜」
スマホを返された。
『ありがとうございます。長らくお世話になりました』
「ううん〜いいのよ、また遊びにきてね〜」
曖昧に笑って、もう一度頭を下げた。
赤井はリビングにはいなかった。
工藤邸で保護をされると決めた時は、降谷に焦がれたものだけれど、まさかこんな形で彼の元に戻ることになるとは想像もしていなかった。
降谷の車に乗り込んで、無言のままマンションに到着した。
今となっては、自身など交渉材料の価値はないだろう。
部屋の前までたどり着くまでに、地下駐車場と、エレベーターと廊下には監視カメラが増設してあり、ドアには鍵が2箇所増えている。
家に戻れたというのに、気が重い…自業自得だけれど。
玄関に入るなり、おもむろに腕を引かれた。
またしてもベッドに叩きつけられた。
腕は無機質なもので、頭上に縫い付けられた。
『な…、手錠…?』
がっちりと、ベッドのフレームに括られている。
ピッという音の出どころを見ると、重厚なガラスケースは変わらずスタイリッシュに開いた。
降谷が手に取ったのは、ナイフだった。
の背筋は戦慄いた。