第4章 優柔と懐柔
降谷はナイフを手に、の衣服を刻んで行く。
急激に外気に晒された素肌は、降谷の異様な気配も相まって震えてしまった。
ナイフがサイドテーブルに置かれて、降谷はの身体を確認しだした。
心配して探っているわけではないのは、一目瞭然だった。
そして、形が歪むほど胸を持ち上げられて、何か痕跡を見つけたようだった。
「赤井と寝たのは、本当だったみたいだな」
『…?』
「ここに内出血の痕が、3箇所もある」
覚えていないけれど、自身が気づかない場所につけられたのかもしれない。
人は怒りを通り越すと、笑うと聞いたことがある。
降谷は仄暗い笑みを、薄く浮かべていた。
今まで見たことのない彼だ。
「弁明もなしか…」
弁明をしないのではなく、事実である以上は弁明の余地がなかった。
はそっと瞼をとじた。
衣擦れの音がして、彼の体温を感じた。
こんな自身でも抱きたいと思うなら、抱き潰せば良いとは思った。
しかし言動とは裏腹に、抱き方は優しくて戸惑っていると、突如痛みが走った。
内出血の残されたと聞いた場所、胸のしたあたり、やわい肉に歯が突き立てられていた。
『ゔッッ』
呻き声をあげて、降谷を見た。
怒りと欲情がない混ぜになっていて、こんな状況なのにそんな降谷でさえ扇情的に目に映った。
背筋が泡立つのを感じた。
自身に被虐的な性癖はない、と思うけれど、この異様な降谷に興奮を覚えてしまったのかもしれない。
優しく触れられたかと思えば、噛まれて。
揺さぶられながら、噛みつかれる。
彼の唇から血の味がして、噛み締めた自分の唇が切れたのかもしれないけれど、戯れではない咬み痕がそこかしこと残されているのだろう。
身体中が無遠慮に蹂躙され続けた。
ぶつけられた激情が、そのまま身体にもぶつけられて。
どれくらい意識を保てていたのかわからない、は喘ぎと呻き声を交互に、汗と涙でぐちゃぐちゃになりながら、いつしか気を失っていた。
ただ、痛いとかやめてとか、彼の行為を否定する言葉だけは一言も発さなかった。