第4章 優柔と懐柔
ほどなくして工藤夫妻の帰国を迎えた。
女性には見覚えがあって、ベルツリーで赤井の部屋を訪れていた、あの女性だった。
そのことを伝えると、「あらぁ、覚えていてくれて嬉しいわぁ〜」と「さんだったかしら、とても綺麗な子だと思っていたの〜、あの時も本当はお話したかったのよ〜」と見た目に反した天真爛漫ぷりに、若干腰が引けた。
あらためて挨拶を終える。
男性の方は、推理小説家、工藤優作。
女性の方は、元女優、工藤有希子。
優作の創作活動のために海外に移住していると紹介をされた。
そして、各々が準備に取り掛かった。
作戦の邪魔にならないように説明を受けてから自室で過ごした。
コナンから受けた指示は、部屋の灯りを点けないこと、それと、赤井同様に自由行動だと告げられた。
窓からは、月灯りがぼんやりと部屋を照らしている。
こんな夜は、降谷を思い浮かべてしまう。
もう思わないと決めたのに。
ドアが軽くノックされた。
彼が訪れるという赤井の合図だ。
部屋から出るか、選択肢は委ねられている。
拳銃を片手に、ドアを開いた。
共に階段を降りて、玄関のドアに向かって正面を赤井が、ドアを背後にが立った。
鍵の差し込まれる音がして、薄く開いた扉からたった1人、降谷が姿を現した。
赤井が銃口を向けると同時に、降谷も銃口を向ける。
「ぬかったな、赤井秀一」
「その言葉、そっくりそちらに返すとしようか、バーボン」
「何をバカな、沖矢昴の正体を見破られた時点で貴様の負けだ」
「君が今日ここへ侵入することをすべて読んでいたとしたらどうだ。合鍵を作ることも、工藤新一を探れという命を受けることも」
「な…、ふっ、やはりその口を塞ぐにはトリガーを引くしかなさそうだな」
緊張感は高まり、引鉄にかける指が動く。
と、玄関の灯りが点された。
「ん、…あっ…、あなたは…」
突如現れたのは意外すぎる人物が2人、降谷は鳩豆状態だ。
「どうも、この家の家主の工藤優作です」
「有希子で〜す…、あらあら〜…、女の子は泣かせたらダメよ〜」
視線の先、降谷の背後には、銃口を真下に向けたまま立ち尽くすの姿があった。
「…」
は、降谷に銃口を向けられず、ただ気配を消して佇むことしか出来なかった。
降谷を見つめる瞳には、薄っすらと涙が滲んでいた。