第4章 優柔と懐柔
記憶は失っていても、本質的な部分は変わらないのだと、喜ばしいことなのか分からずに灰原は胸が痛んだ。
「さん、ごめん。2人を何度も接触させるのはリスクが大きいんだ。2人とも狙われているから…」
全く持ってその通りだ。
は項垂れた。
『うん、わかってる。我儘言ってごめんなさい』
「…でも、2人が話せる機会は作るよ!灰原もな…」
「ありがとう、江戸川君」
2人の気持ちを汲んだ、大人対応なコナンだった。
今後も灰原に会える機会を楽しみに、博士の家を後にした。
工藤邸で保護をされてから、自身の謎をいくつか知ることが出来た。
記憶を取り戻す際の、あの頭痛だけは御免こうむりたいところだけれど、突発的なものだし耐えるしかないと諦めることにする。
帰宅をしてからは、赤井にも話をした。
あの時記憶を失うことになったのは、自らが飲んだ薬のせいだということも。
ひとしきり話し終えると、赤井からも話があるようだった。
「近日中に、降谷君が訪れるだろう」
『は?』
どくんと心臓が跳ねた。
降谷が工藤邸に来る。
そのために、先日FBI組が工藤邸を訪れていたと聞かされた。
掃除をする傍ら、モニターやら電子機器を運び入れていたのはその為の準備だったらしい。
『えっと…、何をしに来るの…?』
「俺の正体を見破るため、とでも伝えておこう」
『歓迎はできない…ようね』
工藤邸の家主、工藤夫妻の帰国もそれが理由だと知った。
それならば、自分の立ち位置はどこになるのだろうか。
『…私は、どうすれば良い…』
「好きなようにすればいい」
意外すぎる返答に、虚を突かれた。
降谷とは接触禁止のはずだ。
顔を合わせてしまえば、保護の意味がなくなるではないか。
『保護は解消ということ?』
「その予定はないが」
赤井が何を考えているのかがわからない。
訝しんで見つめていると、テーブルに拳銃が置かれた。
これを置かれるということは、彼の立ち位置は、組織の人間としてということだろうか。
降谷に拳銃を向けたくはないけれど、組織に属する他のメンバーが訪れたときに、自身の身くらいは守らなくてはいけなくなる。
はそっと拳銃手に取った。