第4章 優柔と懐柔
目が覚めると、なぜか赤井の膝の上だった。
抱きかかえられて寝ていたようだ。
意味がわからない。
『…え、なんで?』
至近距離にある赤井の顔を見上げた。
「さん…」
コナンの声がする。
『え、コナン君?おかえり?』
「ただいま…。一応、赤井さんの名誉のために言うけど…」
これは明らかに呆れている顔だ。
どうやら眠りについてから、赤井の手を握りしめたまま寝ていたかと思いきや、もぞもぞと起き出して…。
「さんが自分から抱きついてたよ」
『………』
「しかし第一声がそれか…っく」
たしかに『え、なんで?』は、それであるけれど、それどころではない。
赤井の口角があがっているのは見たことがあるけれど、笑い声をはじめて聞いたかもしれない。
っく、だけだったけれど。
コナンも同様だったようで、2人で呆けながら見つめてしまった。
「体調はどうだ?」
『寝たからかな、すっきり』
いつまでも膝の上にのっているのも変だし、と。
『お邪魔しました…』
「っく…」
そんなに可笑しいのだろうか、まだ笑っている。
はゆっくりと膝の上から降りて、隣に腰を掛けた。
「紅茶でいいか」と赤井は立ち上がり、『ありがとう』と伝えた。
「これお土産!」
テーブルに八つ橋が置かれた。
ということは京都に行ったのだろうか。
なんだか修学旅行みたい、とまで考えて、しゅ、と言いかけたコナンを思い出した。
コナンの年齢から修学旅行の選択肢はない。
「さん?八つ橋嫌いだった?」
『ううん、ありがとう!夜食のあとにでもいただくね』
気にし過ぎなのだろうか、でもこの少年は少年らしからぬ言動が多い。
思案してしまったけれど、疑うのは良くない。
切り替えなくては。
ことりと、目の前に紅茶がおかれた。
『ありがとう、いただきます』
あたたかくて少しだけ甘い、ほっとする味だ。
記憶のせいか、赤井の存在に安堵すら覚えてしまいそうで、はやはり戸惑った。
こちらも切り替えなくては、とは思った。
「さん、えっと…あのさ」
コナンにしては歯切れの悪い言い出しだ。
今しがた疑ったことを悟られたのだろうか。
『…なに?』
コナンは意を決したようだ。
「さんに会いたがっている人がいるんだ…」