第4章 優柔と懐柔
その日は朝からFBI組の揃い踏みで、工藤邸は慌ただしかった。
どうやら工藤邸の家主が帰国をするらしい。
『え、私、部外者だけど…』
家主とは面識もなければ、危険人物である自分が勝手に屋敷に滞在しているのはおかしな話だ。
「話は通してあるから安心して!」
ジョディがそう言うなら問題はないのだろうけれど。
1人手持ち無沙汰で、せめてもと家の中の掃除をはじめた。
なにせ豪邸だ、1日やそこらでは掃除は終わらない。
といっても、入室の許可を得ている場所のみだし、帰国までには終わるだろう。
だらけていた期間が続いてしまって、掃除しかしていないというのに夜になると疲労感に襲われていた。
赤井はFBI組とどこかへ出かけたし、はゆっくりとお風呂に入って、早めの就寝をした。
深い眠りの中で、夢を見ていた。
『私は何も知らない!』
無実を訴えている自身の前に、注射器を片手に持った男が立っている。
男は霧がかかって、顔の認識はできない。
手足は拘束されていて、身を捩っても動けなかった。
『本当に!私から引き出せる事なんて何も無い!』
こちらの言い分など聞き入れずに、注射器の針は肌に突き立てられた。
薬液が身体に入り込んで、とても気持ち悪い。
『やめて!━━!!』
名前らしきものを叫んでいる。
駄目だと観念して、奥歯を噛みしめた。
パキッと音がすると、奥歯のあたりで何かが砕けた。
ひと欠片も残さずに、唾液を分泌させて必死に飲み込んでいる。
身体はザワザワとして、吐き気と目眩に襲われて、じっとりと汗が吹き出して、くるしい。
外がやけに騒々しくなって、男は舌打ちをして部屋を出ていった。
入れ替わるように、誰かが目の前に立った。
何かを言われているけれど、聞こえてこない。
それなのに、ひどく安堵している自身がいる。
『……ライ』
薄れゆく意識のなかで、その名を呼んだ。
―――Pipipipipipipi
『っ、はぁ…はぁ…、うっ…』
朝から掃除をするためにセットしたアラームで、泥沼から一気に浮上するように目覚めた。
身体は嫌な汗でじっとりとして、夢の続きのように頭痛と吐き気がする。
あまりにもリアルすぎる感覚は、フラッシュバックのようだ。
『うっ…』
慌てて口元を抑えた。
込み上げる吐き気を堪えてトイレへ走る。