第4章 優柔と懐柔
自意識過剰かもしれないし、恩に報いることもできないけれど、ひとつだけはっきりさせなくてはいけない。
『ねぇ、沖矢さん…、赤井さん?』
赤井は視線で続きを促している。
『私はあなたに応えることはできない』
「言っただろう、知っていると」
知っていて、彼のふりまでして抱いただなんて、そこまて思われる"私"は、なんて罪深い女だったのだろうと思う。
『おそらくあなたには恩がある。けれど…』
「50:50だ」
が手の届く範囲にいるうちに懐柔できる可能性が半々だったと案に告げられた。
しかしその答えはあながち間違えてはいなかった。
『ある意味、正解かもね』
赤井は訝しげにこちらを見ている。
2度目に抱かれた時に、目の前に迫る快楽に抗うことが出来なかった。
離れた恋人への裏切りを、自身が許してやることができない。
『あなたに応えるつもりもないし、彼の元へ戻るつもりもないってことよ』
「君らしい」
『私もそう思うわ』
もし、この件が片付いたら、降谷にも正直に伝えるつもりだ。
深く傷つけてしまうし、彼から向けられる憎悪を想像すると怖いけれど、黙ったまま姿を消すのはフェアじゃない、はそう心に決めた。
『言っておくけど!もう寝込みを襲うのも禁止だからね!!』
赤井は両手をあげて、悪びれる素振りもなくわかったとジェスチャーを送る。
はくったりとソファーに背を預けた。
『禁酒つらい…』
コナンの帰りが(解禁日が)待ち遠しい。
沖矢が立ち上がると、冷蔵庫からビールを一缶だけ持ってきた。
ことりとの目の前に置かれた。
「これくらいは問題ないだろう?」
あくまで進められたから呑むのだ。
『…遠慮なく!!』
黄金のしゅわしゅわが身体中を潤して、少しだけ気分は軽くなったような気がする。
自身の中のけじめもあって、降谷のことを思うことはやめる。
その資格すら今の自分にはないと、気持ちを切り替えられた頃にコナンは旅行から戻った。