第4章 優柔と懐柔
「他に質問はあるか」
目の前の男の正体を聞いたら教えてくれるものか。
『あなたの名前は?』
「赤井秀一」
あまりにもすんなりとしていて、拍子抜けをしてしまった。
は顎に親指をかけて、人差指で唇に触れた。
組織が完全な悪だとするなら、ライは何故追われる立場になったのか。
スナイパーという職業は、日本では少々考えにくい。
そもそも赤井は、自身とは違ってFBIに守られている立場ではないし、協力者というより対等の立場のように感じる。
日本警察とは違い、FBIなら潜入捜査もあり得るのではないか。
『協力者じゃなくて、あなたFBI?』
赤井の視線はやっとを見て、少しだけ口角をあげている。
正解ということだろう。
となると、もしかしたら自身も実はFBIで、潜入捜査がバレて組織に追われる身になったのでは?
「それはない」
話す前に否定をされてしまった。
自身だけ悪の組織にずぶずぶということらしい。
いつから、どんな経緯で組織に所属したのだろう。
「詳しくは知らないが」
また話す前に答えが返ってくる。
そんなに表情に現れていたのだろうか。
赤井の潜入時にはすでに組織の人間で、コードネームを与えられていたと教えられた。
任務も共にしたことがあり、大人の関係を持ったこともあると、ついでのようにサラリと伝えられた。
「が記憶を失った時に、保護をしたのは俺だ」
『…私が記憶を失った時?私は自室のベッドの上だった…』
「それは、俺の元を去った後の話しだろうな」
『…あなたの元?』
全く思い出せない、記憶喪失だから仕方のないことだけれど、それならば降谷の元を去ってから2年の間に、2度も記憶喪失になっているということになる。
1度目は赤井に保護をされる前、2度目は赤井の元を去った時だろうか。
きっかけは何だろう、確か記憶を消すほどの力のある組織だと聞いていた。
薬物投与か、脳への刺激か…想像するとどちらも怖い。
『情報としての整理はできた…、けれど理解が追いつかない…』
「いずれ記憶が戻れば理解もできるだろう」
『戻ればね…』
理解は追いつかないし記憶にもないけれど、FBIであること、自身も組織の人間であったこと、それに赤井には助けられたのかもしれない。
こんな話をされて、は彼を責めることが出来なくなってしまった。