第4章 優柔と懐柔
工藤邸のお風呂は大きな檜造りで、さながら温泉気分を味わえそうだ。
着替えも手に入ったし、先に入浴せてもらうことになった。
やはりこんな状況でも、ご飯は美味しいし、お風呂にはいれば心地よい。
自身が薄情なのか、彼のことを極力考えないようにしているのかよくわからない。
お風呂からあがり、ジョディの用意したTシャツとショートパンツに着替えた。
彼女の好みなのかパステルカラーにファンシーなプリントがされていて、の好みではないけれど背に腹だ、袖を通した。
スキンケアに関しては満点だった。
女性同士からか、かゆいところに手が行き届いていた。
保護される身の上としては少し贅沢な気もするけれど、こちらもありがたく使用させてもらおう。
リビングに戻ると、沖矢の姿はなかった。
飲食も自由にということで、冷蔵庫からミネラルウォーターをとりだした。
火照った身体に冷えた温度が染み渡って、人心地がつく。
自室に戻ってから、本の続きを読みふけった。
変な時間に寝てしまったから、時計の針が深夜をさしているのに眠れそうにない。
そういえば、お風呂の電気を消灯したのか気になりだした。
人様の家だし、気をつけるべきはしっかりとしなければいけない。
時間帯は深夜、そろりそろりと移動する。
他人と暮らす、ましてや転がり込んだ身分だから配慮は怠らない。
元々組織の人間であるは、身体能力もさることながら、隠密行動も備わっている。
物音も気配も消して行動をするというこのスキルが、自分の首を締めることになるとも思うまい。
レストルームの扉から、うっすらと灯りが漏れていた。
やっぱり消し忘れていたようで、確認をしにきて正解だったと、扉を開ける。
『どぅわっ!!!』
予期しない場面に出くわしてしまったから仕方がないとは言え、からはとんでもなく間抜けな悲鳴があがった。
『し、失礼いたしました!!!』
丁寧な言葉と乱暴な音をたて、慌てて扉を閉める。
男がいたのだ、あの手榴弾男だ、しかも全裸だ。
すっと扉が開いた。
『なんで全裸のまま出てくる!?』
せめてバスタオルとか巻いたり、そんな気遣いはできないのかと批難する。
「見られて困るものはないからな」
たしかに、困らないのだと思う。
とても立派なものをぶら下げておられた。