第4章 優柔と懐柔
そもそもなぜ沖矢がレストルームにいると考えなかったのか。
まずは入室確認のノックをすべきだったと、激しく後悔した。
それに、お風呂上がりということは、この無骨そうな男が沖矢の中身のようだ。
中身と対面するのは、薄暗い列車の個室以来になる。
降谷も肉体美だけれど、沖矢の中身もまた違った肉体美を持っている。
例えるなら細身だけれど、男があこがれる雄のような、これこそ無駄のない身体だと思わず見惚れてしまった。
『あなた…すごい鍛え方ね』
そっと胸筋に触れてみた。
降谷の筋肉はどちらかと言えば、格闘技向きの程よい脂肪を纏わせたものだ。
沖矢の場合は、脂肪が薄くてアスリートのような筋肉だと思う。
体脂肪は余裕で一桁ではないだろうか。
そういえば沖矢と握手をした時に、手の皮が厚かったことを思い出した。
左手を掬い上げて触れてみると、独特な皮の硬さがある。
何年も日常的に握りしめた…、拳銃とは違う、もっと重量のあるなにか…。
『あなた…スナイパー?』
「正解だ」
あっさりと正解を認められて、思わず笑みをこぼした。
すると自身の頭より高い位置で、ふっと笑う音が聞こえた。
目線をあげてみると、口角がほんの少し上がって…いるような気がする。
そして頭を3度、大きな手でポンポンとされた。
「子供は早く寝たほうがいい」
そう言い残して、2階への階段を登って行った。
全裸で。
こんなに美人でスタイルも良い女なのに、子供扱いされるのはなんとも心外だった。
それと全裸なのもどうにかした方が良いとは思った。
点けっぱなしのままの、レストルームの電気を消して自室に戻った。
あの身体を維持するとなると、ハードなトレーニングをしているのだろうか。
それに自身なんて軽くあしらわれるほど、相手にならないくらいに沖矢は強かった。
『稽古でもつけてもらおうかな』
何せ時間はたっぷりあるはずだ…きっと。