第3章 予兆と微票。
『戻りましたー、梓さーん!』
ポアロに戻ったの荷物をみて、梓は驚いた。
簡単な買い物を頼んだはずが、大荷物を抱えている。
「さん、どうしたんです!?」
『あはは、福引で当てちゃいました』
梓に手伝ってもらい荷物をおろした。
『それと、これ。何かのチケットらしいです』
「これっ!ベルツリー急行のチケットじゃないですかっ!!」
『おじさんも言っていたけど、ベルツリー急行ってなんですか?』
梓は軽くカルチャーショックを受けたようで、チケットの説明を始めた。
話を聞いてみると、年に一度しか運行しない東京発、ミステリートレイン、ベルツリー急行。
それはそれはチケットは入手困難なうえに、とても高価なものらしい、ということが分かった。
あまりの力説ぷりだし、興味があるのかもしれない。
『1枚しかないし、良かったら梓さんどうぞ!』
「良いですかさん、こーゆーのは当てた人が行くべきです!」
なにやらジンクス的な話をされて、結局自分が行くことになってしまった。
一度降谷に相談をと思ったけれど、彼からのメッセージを思い出した。
日帰りの気楽な一人旅だし、行ってみようとチケットを眺めた。
自分を待ち受ける運命など、知る由もなく当日になる。
東京駅に到着して、すぐにホームへと向かった。
ベルツリーの乗車を待っていると、背後から声をかけられた。
「さん?」
振り返ると沖矢がいた。
「あなたがなぜここに?」
『こんにちは、沖矢さん。私は福引で当ててしまって』
「そうですか…」
何かを考え込んでいる、歓迎はされていないような雰囲気だ。
「席はどちらですか?」
沖矢にチケットを見せると、口の端がわずかにあがっている。
いつもの貼り付けたような笑顔は好きではないけれど、これはこれで不気味に感じてしまった。
「となりですね」
『え?』
「席です」
沖矢のチケットにはと続きの番号が書かれていた。
『隣ですね。沖矢さんもお1人?』
「連れが1人」
デート…なのだろうか。
それなら自分と一緒にいるのは良いことに思えて、少し距離を取ろうとする。
「違いますよ」
見透かされている感じが落ち着かなくて、やはり少し距離を取った。
しばらくすると乗車がはじまって、各々が割り振られた部屋へと向かった。