第3章 予兆と微票。
ポアロでのアルバイトも、すっかり生活の一部になりつつある頃。
その日は、早番だった。
「さん」
『はい』
「安室さん、しばらくお休みするそうです」
『あ、そうなの?』
安室透である降谷の仮の職業は、本業が探偵で、副業がここポアロの勤務だ。
『お仕事が立て込んでるのかな』
降谷零の仕事が立て込んでしまったのだろう。
連絡がきているかもしれないし、あとでスマホを確認してみよう。
「そうみたいですね」
『シフトの変更はある?』
「私がカバーできるので大丈夫です!」
が週に2回のバイトに入る前から、きっとこうやって補っていたのかもしれない。
何でもない慣れっこ、そんな雰囲気だ。
「それで…」
『はい?』
なんだか神妙な面持ちの梓に、こっちも身構えてしまう。
「買い出しのお願いしても良いですかー?これに書いてあります!」
何かと思えば、買い出しのお願いだった。
メモにはアイスクリーム、レモンと書かれている。
『わかりました。行ってきますね!』
「お願いしますー!」
『はーい』
ポアロを出てすぐにスマホを確認すると、降谷からのメッセージが1件。
━しばらく連絡はとれそうにない。心配するな。
端的な文に忙しさがうかがえた。
しばらくってどれくらいだろうと考えながら買い出しをすませると、店主から「いつもありとう。これオマケね!」と福引券をもらった。
『あ、ありがとうございます』
「今日までだからね、1等はまだ出てないはずだ!」
ということで、買い出しを終えて福引のガラガラを回す。
きっかり3回まわせるようにオマケしてもらったようだ。
━ガラガラガラッ…コロロン。
青、高級ボックスティッシュだ。
━ガラガラガラッ…コロロン。
赤、ソープの詰め合わせだ。
━ガラガラガラガラッ…コロン。
金。
「「おおおおお!」」
「1等大当たりー!!!」
「ポアロのお姉さんやるねー!!」
福引係のおじさんがカランカランッとベルを鳴らしまくっている。
『1等?』
「ベルツリー急行のチケットだよ!」
ただし、なにぶんしがない商店街の福引、ペアチケットまでは手が出なかったらしくお1人様用らしい。
と言われたところでベルツリー急行が何なのかわからない。
『ありがとうございます』
お礼を伝えて、大荷物を抱えてポアロへと戻った。