第2章 錯綜と交錯。
コナンは勢いよくドアを開け放った。
「安室さん!!!」
男は安室の肩を両手で掴んでいる。
は男性客の腕を安室から剥がすと間に立った。
『お客様とは言え、安室さんに触らないでストーカー!』
安室はキョトンとした顔をし、横にいた梓も驚いた顔をし、男は激しく動揺していた。
「さん…わかったよ。その人はパン屋さんだよ」
『……え?パン屋さん??』
「おじさんて爪をキレイにしてるんだね」
『本当だ…』
男性客は慌てて手を後ろに隠す。
「それに、おでこにある特徴的な痕」
「ああゴムの痕ですね」
『帽子のゴム痕?』
確かに男の額には、衣服のヨレのような一本線ががぐるりとあった。
「そう。特にうどんかパンなどの粉物を扱う料理人で、厨房にいて接客をしないタイプの人が被る帽子です」
店で接客しないタイプのパン職人なら、大抵は早朝と昼過ぎにパンを焼き、朝と夕方には割と自由のきく仕事。
さらに商店街で姿を消したのは、パン屋の厨房に戻り姿を確認できなくなっただけだった。
ポアロに戻ったのは、最後の手段に出ると思ったからだとコナンは推理した。
『最後の手段?』
「直接聞こうとしたんだよね、安室さんにサンドイッチの作り方を」
パン職人に視線は集まった。
「そうなんですか?」
『そうなの?』
パン職人はおずおずと口を開いた。
最近ポアロのサンドイッチが安くて美味しいと評判を耳にし、今回の行動に出たという話だった。
サンドイッチの作り方を教わり、パン職人は満足気に帰っていった。
こうして数日間の探偵ごっこは、杞憂により幕を下ろした。
安室はに耳打ちをする。
「危険性があったらどうするんだ」
『だって、危険性があったら追いかけてたでしょ?』
「無闇に首をつっこまないでくれ、心配するだろ?」
『…ごめん』
この手の"ごめん"はこの先何度も聞くことになるとは、この時の安室は思ってもいなかった。