第2章 錯綜と交錯。
杞憂に終わった事件から数日。
お泊り会もすでに何度目かになった。
その日も、約束をしていた。
しかし仕事が立て込んだようで、迎えに行くのが遅くなると連絡がはいった。
『無理しないで、また今度でも良いよ?』
「無理はしていない、また連絡する」
と、通話は切れた。
夕食か明日の朝食にしようと、料理を作って簡易的な容器につめた。
準備は万端だ。
しかし23時を過ぎても連絡はなかった。
忙しいのは仕方ないことだけど、何かあったのかとつい心配になってしまう。
ソファーにごろりと寝転ぶと、スマホが着信を知らせた。
「すまない、遅くなった」
『ううん、大丈夫だった?』
「あぁ…問題ない」
問題ないという声には、疲れがみてとれる。
声で判断がつくくらいには、安室のことを理解できている気がしていた。
はてさて、今から安室の家に向かうよりは、この家に泊まる方が良いのではないか…と提案する。
5分程で安室は到着した。
「ただいま」
『おかえり…って…、ひどい顔してる』
彼にしてはめずらしく、全身から疲れが滲み出ている。
先にバスルームに押し込み、その間に容器に入れた夕食を器に移した。
着替えは潜入捜査用に準備していたものを持参していた。
お風呂から出て夕飯を食べ終わると、後片付けをすると聞かないからソファーへと追いやった。
洗い物もお風呂もすませる。
よほど疲れていたんだろう、ソファで寝てしまった安室がいた。
目の下には濃い隈がある。
『零、起きて。風邪ひいちゃうよ、ベッドで寝よ』
「…うん」
寝ぼけて"うん"と返事を返された。
あまりにも無防備な姿はレアで、不謹慎ながら可愛いと思ってしまう。
『素直な返事は可愛いけれど…起きて?』
「…ん」
数回揺するとふらふらと、寝ぼけながらもベッドルームへ歩いていく。
追いかけるようにベッドにもぐりこむと、自然と腕が伸びてきた。
すっかり定位置になった腕枕に首をのせる。
すぐに寝息が聞こえてきた。
淡いミルクティー色の髪に手を伸ばす。
撫でれば柔らかい。
背中に腕を回してみれば、条件反射のように抱きかえされて、なんだかそれが嬉しくて、胸に顔を押し付けた。
愛しいと思った。
どうしてこの人を拒めたんだろう。
今更どうやってこの思いを伝えれば良いんだろう。
そんなことを考えているうちに、いつしか深い眠りへと落ちていった。