第1章 記憶と感覚。
黒いセダンは、すぐには上ってこなかった。
駐車場をくまなく探し回っていると伺える。
5分程で最上階までやってきた。
運転席と助手席に1人ずつ、店内に2人…、恐らく全員が黒のスーツでサングラス着用とは、いかにも怪しい。
この男達の目的は、何なのだろう。
セダンはゆっくりとしたスピードでFDの元へ行き、隣に停車した。
助手席の男が車を降りFDのまわりを歩く。
運転席の男が降りて、トランクを開けて何やらゴソゴソとはじめたが、この位置からでは死角だ。
何をしているのかは把握できない。
暫くすると店内から2人が現れた。
運転席の男とともにFDの後方で何かを始めた。
男達は5分ほどでセダンに乗り込み走り去って行った。
『あの人達、私の車に何したの…』
恐る恐る近づいて車の後方を確認すると、ライトの点滅する四角い物体が見えた。
まさかまさかだ。
これも映画のワンシーンで見るやつだ。
『………えぇ…、爆弾?』
いやいや、オイ!と心の中でツッコミをいれる。
確かめる術は、さすがに持ち合わせていない。
これは困ったと頭を悩ませていると、後ろから声をかけられた。
「さん?」
『ひゃいっっ!!』
心臓が口から飛び出そうな程に驚くとはこのことだと思う。
この声はもしかしなくても、後ろを振り返ると、やはり安室だった。
『安室さん、気配なく後とるのやめてください。心臓に悪いです』
「すみません。どうかされましたか?」
『私は大丈夫ですので!おかまいなく!!』
強めに言葉を放った。
「君の大丈夫はあてになった試しがない」
そう告げる彼の顔に険しさは無く、ただただ寂しそうなものだ。
しかしいまはそんな感傷に付き合っている場合ではない。
『…何と言えば良いかわからないけれど、とりあえずここから逃げてください』
「逃げる、とは?」
『さっき私の車の後ろに………いや、忘れてください。何でも無いです』
顎に親指を、唇に人差し指をあてる。