第1章 記憶と感覚。
「とにかくさんにはこの家で保護されて欲しいんだ!昴さんなら必ず守ってくれるよ」
少年らしさにシフトチェンジしたコナンの使い分けは、二重人格かと思わせるほどだ。
しかしながら、保護とは…
『そもそも守られるって何?何から?…それにさっき知り合った人と一緒に生活なんて出来るわけないよ』
「僕は構いませんよ」
『私が構うの!』
「…さん…」
「人の助言を聞き入れないのも相変わらずですね」
自身の事なのに肝心なところは伏せられて、私の知らない"私"を語られることに、苛立ちを隠せなかった。
『"私"を知ったように言わないで、私は…何も覚えてない…!』
「混乱させるような事を言ってごめんね、でも何かあったら頼って欲しいんだ」
『ありがとうコナン君…、でも、帰るね』
「何かあればこちらに連絡を下さい、必ずです」
『何かが"何か"はわからないけれど、わかった。紅茶ごちそうさま、美味しかった』
車に乗り込み、発進する。
職業は探偵、またひとつ先に進めた。
肝心な事は、あっちもこっちも伏せられたまま。
さすがに鬱憤もたまるというもの!
車は様々な店舗が並ぶ大通りにさしかかる。
『ストレス解消に服でも買いに行こ!』
好みのショップセンサーを働かせていると、後方にいる黒いセダンが引っかかってしまった。
『……これは、つけられてる?』
保護や守るなど、不穏な会話の後で気にしすぎかと思いつつも、同じ場所を3周してみる。
少し距離をとった黒のセダンがバックミラーに映った。
『……つけられてる』
そのまま家に帰るわけにもいかず、人の多い場所に行ってみよう。
少し先にC○STCOの看板が見える。
『なぜか会員証持ってるのよね』
立体駐車場へ入り、後輪を滑らせながらスピードを上げて、最上階までを一気に駆けあがる。
そのままの勢いで駐車をして車を降りた。
『私って運転上手い!』
これも身体が覚えているような、そんな感覚だ。
黒のセダンが駐車場に入り、2人が車から降り店内へ走る。
立体駐車場へ上り始めるのを確認した。
自分の車が確認できる位置にある、給水タンクの裏に身を潜める。
『見逃してくれないかなぁ…』
少し早い心音に、ふぅと息を吐いて自身を落ち着かせた。