第1章 記憶と感覚。
『昨日、私の首元に何か仕掛けたよね?』
「うん、付けたよ」
あっさり認められ言葉に詰まったところで、トレーに紅茶をのせた沖矢がやってきた。
「どうぞ」
『いただきます』
紅茶を一口飲み、再度コナンに向き合う。
『えっと…なぜ?』
「安室さんと関係がありそうなさんを警戒したからだよ」
明らかに先程とは違う子供らしからぬトーンと語り口調に、図らずも面を食らった。
この少年は、ほんとうに何者なのだろう。
それに、安室と関係があることで疑いをかけられた、とはどういう意味だろう。
探るような視線を思い出す。
『どうゆう事…?どうして安室さん?』
「それは話せません」
コナンではなく沖矢が口を開いた。
昨日から"今は話せない""それは話せません"ばかり聞いているようで、ため息も出てしまう。
『…私がここに呼ばれた理由は?』
「あなたを保護するためです」
『…へ?』
警戒する相手を保護するという、まるで間逆で突拍子もない一言に、思わず素っ頓狂な声を出してしまった。
『ごめんなさい、本気で意味がわからない』
「僕は情報でしか知らないけど…」
『…え?』
「さんは探偵だったはずだよ」
「ただ今はそれ以上の事は言えません」
『…私が探偵?』
顎に親指を唇に人差し指をあてる。
スパイとか殺し屋を想像していたから、探偵と聞いて少しホッとしている。
けれども、民間人でこれらの武器は普通なら持てないはずだ。
今はまだ話せない内容に関わっているのかもしれない。
「変わってないですね、その癖は」
この男もまた、"私"を知っているのか…視線を沖矢に移した。
『あなたも私を知っているの?』
「ええ、深く知っています」
『え、あなたも元カレ候補??』
「ご想像におまかせします」
貼り付けられた表情は、やはり苦手だと、こちらはこちらで苦手意識が生まれそうだ。
「ところで、"あなたも"元カレ候補とは他に誰が?」
『冗談です、忘れてください』
「あまり笑えない冗談ですね」
貼り付いているはずの笑顔の裏に、鋭いものが見え隠れする。
"私"は男性関係が派手だったのだろうか。
なんだか怒られている気分にさせられた。
『…ごめんなさい?』
しかし本当に深い仲だとすると、正直好みじゃない。
どちらかと言えば彼の方が、と、失礼なことを心の中で呟いた。