第1章 記憶と感覚。
「あれぇ、さん。肩にゴミがついてるよ。取ってあげるね!」
『え…』
首の後ろへコナンの手が伸びた。
「糸くずだったみたい!」
『ありがとう、コナン君』
「これで何かあっても大丈夫だね!」
『うん、何か分かったらよろしくね』
「うん!さん、またね!」
大きく手を振り見送るコナンを背に、安室の待つ駐車場へ向かう。
"私"を知るなら、こっちが大本命となった。
逸る気持ちを抑えつつ、足早に駐車場へ向かう。
駐車場が見えると、愛車に背中を預けて腕組みをする姿が見える。
安室だ。
『お待たせしました?』
「いや、気にするな」
助手席側のドアを開けられて、黙って乗り込んだ。
駐車場を出てからというもの、会話をする気配の感じられない安室の横顔を覗き見ると、数時間前までの険しさは見受けられない。
しばらく走り続けると、人気のない薄暗い埠頭で停車した。
安室は無言のまま車を降りた。
ここで話をするつもりなのだろうか、なんだか刑事ドラマで追い詰められた犯人のような気分にさせられる。
も車から降りると、安室は唇に人差し指をあて静かに、とジェスチャーを送る。
黙れということだろうか。
軽く頷いてみせる。
ゆっくりと距離は縮まり、首まわりに手が伸びる。
反射的に腕をとろうとするが、軽く躱されてしまった。
端正な顔が徐々に近づき、指が首を掠める。
意識せずにはいられない距離に、落ち着かない。
触れられていた指はあっけなく離れた。
そして、手のひらには小さく丸いボタンのような何かがある。
それが何か分からずに、訝しげに見つめる。
安室はそれをくしゃりと握り潰した。
「コナン君の仕業でしょうね」
あの少年の仕業?
思い当たるのは、糸くずをとってくれた時だ。
『…今の何?』
「恐らく発信機か盗聴器ですね」
少しばかり合点はいく。
子供のものとは思えない、探るようなあの視線だ。
『何者なの、あの少年』
「僕にもはっきりとは…」
これ以上深堀りしても情報は得られなさそうだし、ここへ来たのは少年の話をするためではない。
私が知りたいのは、"私"についてだ。