第4章 優柔と懐柔
はエントランス前に車を停車させて、非常階段からベランダを伝って自宅へと戻った。
持てるだけの衣類をスーツケースに詰め込んで、持ち出せるだけの武器をライフルケースにしまい込んだ。
他に必要なものがあれば買い足せばいいと、玄関を出た。
玄関から出れば、どこかへ通知がされるだろう。
今からこちらに向うのでは遅い、その頃には自身はとうに姿を消している。
しかし予測は大きく的を外れて、エレベーターを降りるとスーツの男が5人待ち構えていた。
「さんですね」
眼鏡を掛けたこの神経質そうな男が、指揮官らしい。
『あなたは?』
男は胸元から手帳を取り出して、こちらへ向けた。
「警視庁公安部、風見です」
『公安ね…』
自身の身辺保護を任されている部署、ということか。
『こんなところまでご足労いただいて申し訳ないけれど、保護は解除になったと彼に伝えて』
「できかねます」
は溜息をついてから、胸元の拳銃に手をかけた。
自身の素性が知られているのだろう、この人数でこの物々しさだ。
抵抗されることも計算のうちか。
『始末書は、少い方が良いんじゃない?』
大事に至らせない方が良いと、暗に伝える。
ホルスターから拳銃を抜いて、風見に向けた。
彼らは焦る様子もなく、拳銃を引き抜いて銃口をこちらに向ける。
さしずめ公安か、と納得するけれど。
『ブラフね…、あなた達は私を撃てない。でも私は違うわよ、良い子だからそこから動かないでね』
男達は銃口をそのままに苦虫を噛み潰している。
は仄暗く笑いながら、銃口を風見に向けたまま後ろ向きにゆっくりと歩く。
背後から近づく気配に、振り返りざまに銃口をそちらに向けた。
ジョディだった。
『ジョディさん…』
「大丈夫よ、。銃をろして。あなた達も動かないで!FBI捜査官、ジョディ・スターリングよ」
手帳を見せながら、銃に手をかぶせて銃口がおろされた。
コナンの仕業かと、口留めをすれば良かったと後悔する。
「彼女の身柄は1度こちらで預かるわ」
「なぜFBIが…、身辺保護はこちらの管轄だ」
「みすみすと外出させるような機関に任せておけないからよ」
「しかし!」
はそういうことならばと、これを利用しない手はないと、話に乗ることにした。