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【夏目友人帳】海底の三日月

第4章 お伽話の法則


何のための陣なのか考える暇もなく無理やり力を引き出されるのを感じる。
痛みとも苦しみともつかない何度感じても慣れない不快感に座り込むのと、背中から真っ白な翼が生えるのはほぼ同時だった。
多くの人が欲する力の源。

「さて、何か私に言うことはありませんか?」
振り返るとやはり彼の顔にはいつもの微笑はなかった。
「…ごめんなさい」
「何について謝ってるんです?」
「…離れで待っていなかったこと、勝手に母屋に来てしまったこと、お客様と言葉を交わしたこと、裸足で外に出たこと…」
「1つ大事なことが抜けています。『姉や妹を追って邸を出ていくことはしない』ということが姉妹に引き合わせる条件だったはずですが?甘い言葉に釣られて約束を破ろうとしましたね?」

何も答えられずにいるうちに、陣の中に入ってきた彼に押し倒される。
片手で頭を押さえられ、赤い隻眼から顔を逸らせない。
「どうしましょうかね…」
さっきまでの厳しい表情はなくなったが、代わりに凍りつくような笑みを浮かべた顔がすぐ近くにある。恐怖よりも陣の中にいることが苦痛で身を捩ったが、逃れることはできなかった。

「離れに結界を張っていたのに君には全く意味がなかったようですし…『出ようと思えば出られる』と言われては対策を講じないわけにはいきませんね。いっそ身体を奪ってしまいましょうか…。苦痛と快楽で、もう抵抗する気も起こらないように…」
片手で大腿を撫でられる。
陣に入る時の抵抗力のせいで彼の髪を結ぶ紐が切れたのだろう。顔の横をまっすぐに流れる濡れた黒髪、私を囚える漆黒の鳥かご。

「それともこの翼、手折ってしまいましょうか…。君の力が半減するのは惜しいが、逃げられるよりはずっといい」
大腿から離れた手が右の翼に触れる。

「逃げない…逃げないからここから…」
とにかく出してほしいと訴えようとしたが、途中で口を塞がれる。
「お仕置きなんですから、このまま耐えなさい」
耳元でささやかれた。

次第に増す苦痛から逃れようと暴れると、体重をかけて全身で床に押し付けられる。
もともと頭を押さえていた手は力が込められ、翼に触れていた方の手は背中に回され、押さえつけられているのか抱きしめられているのかわからなくなる。

「もう少しだから…」
諭すようにささやく小さな声と同時に左手首にチクリと痛みが走った。
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