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【夏目友人帳】海底の三日月

第4章 お伽話の法則


「手に怪我をしています」
さっきと同じ言葉を繰り返す。
「…ええ、いつの間にかぶつけたんでしょうが、大したことないですよ」
「私、頭を打たなかったんです」
「…何のことですか?」
「陣の中で押し倒された時、頭を打たなかったんです。的場さんが、私の頭の後ろに手を当てていたから」
「それは特に気にしてませんでした。完全に無意識でした」
「無意識な行動にこそ、その人の本質が現れるものです」

「…と言われても、べつに君を気づかったつもりはないんですけどね」
「特別に思う人に心を配ることは普通のことです。特別でない人にも心を配るなら、それは思いやりのある人だということだと思います」
「買いかぶりすぎですよ。そんなんでは後々幻滅しますよ」
自分がどういう人間かは自分自身にはわからない部分もある。
「意識的でないからこそ、行動や言動の端々に本質が見え隠れするんです」

頭を打たないようした。どこへ行っても厄介者で帰りたい場所がなかった私に「君の帰るところはここです」と言ってくれた。妖怪を殺すところを私に見せなかった。お姉ちゃんに確認までしてくれた。呪いのあざに私が気づかないよう、残ってしまった呪いのあざの上に束縛の呪符を貼ったのだろう。

「買いかぶりすぎです。今更猫をかぶっても仕方がないから言いますが、私は君の力を利用するために君を閉じ込め、他人に横取りされないようにし、その力が遺伝することを期待して婚姻を結ぼうとしている。君の逃げ道を非情に断ち切った、そういう男ですよ」
「…有無を言わさず連れてこられたから言う機会がなかっただけで、嫌々来たわけではないんです。的場さんが私の逃げ道だと切っていったものは、私にとっては囲いであって檻でした。『叔父、叔母のところよりはよっぽどマシ』と聞いたんですよね?」

私を囲う茨を1つずつ断ち切って私を連れ出した人。
それは、お伽話なら王子様の役目。
私は自ら進んで彼の鳥かごに入った。

「残念ながら、お伽話のお姫様のように美人ではないし心配性で臆病者だけれど、それなりに幸せには暮らせると思ってます」
「…そうですか…それなら、それなりに幸せにしてあげられるよう努力はしましょう。ただしお伽話と違って中身はただの野獣かもしれませんから覚悟しておいてくださいね」
いつもの取って付けたような微笑ではない、意地悪そうに妖艶な彼の微笑を初めて見た。
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