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【夏目友人帳】海底の三日月

第4章 お伽話の法則


行きたい…でも、この感覚、知っている。不自然な会話なのに、下手な誘導なのに、心を動かされる感覚…同じだ。
――「早く、家に帰ったほうがいい」――

「大丈夫です。出ようと思えば出られるので」
不安にかられて、それだけ言うと裸足で縁側から庭に降りた。降りたのはいいが、足がすくんで軒下から雨の中に踏み出せずに立ち止まる。

シュッ
その瞬間、顔のすぐ横を何かが通り過ぎた。…矢だ。
振り返ると、さっきまで話していた男が、着物の袖を柱に留められて動けなくなっていた。
「さやぎ、こちらを向いていなさい」
男から目を離して向き直ると、雨の中に弓矢を構えた的場さんが立っていた。部下と式もいる。

「それを手放しなさい。さもないと、あなたの体ごと射抜きますよ」
後ろで男が舌打ちするのが聞こえたかと思うと、構えていた方向よりも上方に破魔矢が放たれた。矢の刺さる音、うめき声、人の倒れる音が後ろから聞こえたが、的場さんから目を放すことができなくて振り向いて見ようとも思わなかった。

「後のことは任せる」
的場さんは部下に命じると、何も言わずに私の手を引き縁側に上がる。

「来なさい」
振り向いて声をかけられた。怒っているのだろう。今までにない厳しい目が向けられた。
「あの…」
どうしていいかわからず一歩後ずさる。勝手に母屋に来てごめんなさい…裸足で出て足が汚れてるんですけど…外を確認したいんですけど……何の言葉も出なかった。思わず後ろの柱につかまって体を支える。

「歩かないのなら引きずっていきますよ」
近づいて強引に手を引き、無理やり歩かせる。

小走りでなければついて行けない速さで引っ張られるので、本当に半ば引きずられるように廊下を歩く。
母屋を案内された時には通されなかった邸の奥へと進んでいき、扉に護符のようなものが貼られた部屋へ放り込まれた。
文字通り放り込まれるように入らされたので勢いで3歩ほどつんのめって、何かの強い抵抗感を超えて床に描かれた陣の中で何とか踏みとどまった。
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