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【夏目友人帳】海底の三日月

第3章 昏蒙のアリス 後編


体を起こそうとしても、胸の辺りには彼の頭、腰には右腕をまわされ、重くはないけれど動けない程度に体重をかけられていて起き上がれない。
「…待って…」
頭を押すのはよくないと思い、両手で彼の両肩を押して訴えたけれど、声も力も思ったより出なかった。
「もっと、下を攻めてほしいんですか?」
顔を上げた彼の表情は、声と同じく妖艶な笑み。
だめだ…
怖い…
落ち着いて話もできない…
右胸のさっきより下、下着で隠されいる部分よりギリギリ上に口づけ…
と思ったら、また噛まれる。
「…っん…」
痛みと逃れられない恐怖感に声が上手く出せない。
代わりに背から白い翼が出て、カタカタと音をたてて木札を倒す。
「ああ、素晴らしいですね。その翼、何かできるんですか?」
的場さんが翼に触れようとしたので、目をぎゅっと閉じて恐怖感を押しとどめ、翼を消す。
「消えた…?勝手に出たり消えたりするのかと思ってましたが、自分で制御できるんですね。昨日も今も意図せず出たようでしたが、…こうすれば、また出ますか?」
彼は少し身体を起こして私の右手を取って、私の目を見ながら腕の内側に口づけて、噛む。
「痛いっ…やめて…」
声をあげても、腕を引こうとしても、やめてはくれない。
それどころか、より強く噛まれる。
これ以上は…
「痛い…逃げない…もう逃げないから…やめて…痛い…」
必死で息を吸っているのに、ほとんど声にならない。
「賢明な判断ですね」
腕を掴んでいた力が不意に緩められた。
「では、もう逃げないと誓いますか?」
的場さんは私の耳の横に手をついて、じっと目を見る。
「…誓います…」
喉の奥から搾り出すように、言葉を紡ぐ。

「いいでしょう。では、今から私の言う言葉を繰り返して下さい」
彼は満足そうに微笑む。
「みんなで力を合わせて綱を引きます」
条件反射的に出てしまった言葉は、今までの状態が嘘のように淀みなかったが、
「え?」
と、聞き返された。
新しい甘酒を5本のひょうたんに入れなさい、のほうだったか?
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