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【夏目友人帳】海底の三日月

第3章 昏蒙のアリス 後編


「さあ、どうしますか?黙っているのなら、それは選ばないということですから選択肢2と同義ですよ」
不意に的場さんの腕が私の肩を掴む。逃げようとしたが、私の身体はそのまま彼の元へ引き寄せられる。
「すみませんね、選択肢を提示してから出かければよかったのですが、昨日は時間がなかったので」
近すぎて顔を見られないけれど、口調からは悪いと思っている様子はうかがえない。
「ですが、私はあまり気が長いほうではないので、できれば早めに選んでいただきたいですね」
「早めって何時間くらいですか?」
怖い人だと思っているのにそういうことを尋ねてしまうのが私の悪いところだ。
けれど彼は、揚げ足取りのような質問にも怒った様子はない。
「べつに何時間でもかまいませんよ。早く選びたくなるようにすればいいだけのことですから」
言葉の途中で掴まれていた肩を押され、そのまま畳の上に押し倒される。

「言ったでしょう?黙っているなら、選択肢2と同義だと」
細められる隻眼、弧を描く唇、さらりと肩から落ちる黒髪…
的場さんは私の顔の横に腕をついているので、顔が近くてどこを見たらいいかわからない。
目を逸らそうと顔を右に背けると、無防備に晒してしまった左の首筋に彼が顔をうずめた。
「…っ…痛いっ…」
チュッと音が鳴ってもまだ強く、首筋を吸われる。
「痛くしているんですよ」
首元で囁いて、鎖骨を舌でなぞる。
身体がピクリとしてしまったけれど、痛くされると思って身構えたのか、くすぐっかったのか、自分でもわからなかった。
いつのまにかワンピースのボタンが外され、舌は鎖骨からもっと下の方へ…
「…んっ…」
左胸の上の方を強く吸われて、喉の奥から声が出てしまう。
「その声、そそられますね」
楽しそうな笑い声が胸元を撫でる。
離れてもらうために的場さんの頭を押してもいいか迷っていると、今度は右胸の上を噛まれた。
「痛いっ…痛いです!……痛いっ…」
急に強く噛まれて、思わず悲鳴に似た声をあげる。
「どうしますか?降参してここでの暮らしを受け入れますか?嫌なら、このままここでもっと痛いことをするまでですが」
彼の少し冷たい手がスカートの裾をまくり、大腿を撫でる。
「それとも、鬼ごっこに望みを賭けてみますか?」
選択権を与えているようで、行き着くところはみな同じ。
そもそもこの人は、私に落ち着いて考えさせる気もない。
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