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【夏目友人帳】海底の三日月

第3章 昏蒙のアリス 後編


眠っていたのか、いつのまにか横になっていた。
部屋は変わらず真っ暗。
記憶を頼りに紐を引くと、明かりがついて、さっきはなかったお膳が格子の外側に置かれている。
『朝食です。食欲がないようでしたら、汁物だけでも召し上がってください。しばらくしたらお膳を下げに参ります。』
昼間に見たのと同じ筆跡。
朝食ということは、夜も持って来てくれたのだろう。
時間感覚がおかしくなっている。
食器は全体的に昼間の物より小ぶり。
小さく十字を切って手を合わせてから、箸とお椀を取る。
格子の目はお椀を持った手を通すにも十分な大きさだった。
大根とほうれん草の味噌汁。

おいしい…
けれど、だるい…
お椀と箸をお膳に戻して、格子に額をつける。

何かを飲んでも、アリスのように小さくはなれない。
小さくなって、格子の間から出たところで、部屋からも邸からも出られないんだけれども…
邸から出たところで、行くあてもないんだけれども…

夕方には的場さんが帰ってくる…
よく知らない人と話すのは苦手だ。
決して怒鳴ったり威圧したりしないけれど、あの人は、怖い人だ…
怒ってない風を装っているのではなく、単に彼にとって怒るほどのことではないだけ…
私のことなど、どうとでもできるという余裕…

格子の扉にかけられた南京錠に左手の甲をかざして、
「_私を通らせて_」
囁いてみても何の変化もない。
当然。

だるい…
夕方には的場さんが帰ってくる…
どうしよう…
どうすることもないか…

雨が上がった空…
矢と弦が風を切る音…
Ein Regenbogen…
手を伸ばして掴んだのは、弓…?
扉が開いて、目に入るのは、
色とりどりの紙の花のついたアーチ…
手を引かれてアーチの下を歩いて行く…
ウサギの形のメッセージカード…
1行ずつ色の違うペンで書かれたひらがなが並ぶ…
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