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【夏目友人帳】海底の三日月

第3章 昏蒙のアリス 後編


静かだ。
なんの音もしない。
自分の呼吸の音だけが聞こえる。
銀三郎を外に出す目的を果たしたんだから、その後逃げる必要はなかったな…。
ああ、でも逃げないと銀三郎を逃したことがバレてしまうから…。
バレると何かまずいことがあったかな…?

ああ、身体が動かない…
このまま、唾が飲めなくなって、呼吸ができなくなって…
思い出すのはやめよう。

静かだ。
こんなに静かなのはいつぶりだろう。
陰口も誹謗中傷もない。
水の音もない。
救急車の音も消防車の音も…
思い出すのはやめよう。
何か考えておいてと言われたけど、何だったっけ?
身の振り方…
段ボールは結局どこに捨てるんだろう…。

手が動くようになった。
左耳に手をやると、リボンを模ったピアスに黒く長い髪の毛が引っかかっていた。
外して見ると、私の髪の毛ではない。

動けるようになったので、起きて部屋を見回す。

壁際の床に木札が散らばっている。
全部で95個。
長辺12cm、短辺6.5cm、厚み2.2cm。
短辺の片側には中央に紐を通すような直径5mmの穴が空いている。
呪術用の木札だろうか。
目につく物では1枚だけ毛筆で何か文字のようなものが書いてある。
草書で読めないのか、そもそも知らない漢字なのか、1文字も読めない。というか、繋がっていて何文字書いてあるのかもわからない。

とりあえず並べてみる。
木目の数が少ないものから順に、一列に。
暑い日々寒い日々を繰り返してきた証を数えて…

静かだ。
人の気配も感じない。
私が動かなければ、世界が止まってしまったかのように、何も動かない。

電気を消してみる。
一切光の入らない室内は、真っ暗になった。

静かだ。
音もない、色もない。
暗闇の中で、記憶を頼りに木札を並べる。
何か考えておいてと言われたけど、何だった?
暗い、静かだ。
いつもは、たくさんの物が見えてしまい、たくさんの音が聞こえてしまうから、すぐに疲れてしまう。
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