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【夏目友人帳】海底の三日月

第2章 昏蒙のアリス 前編


「目が覚めましたか?思ったより早かったですね」
目を開けると、的場さんの顔がかなり近い位置にあって、息を呑む。
手脚が動かない。
翼も消えている。
揺られている。
いつのまにか邸に戻ってきたようだ。
的場さんに抱きかかえられて、どこかへ運ばれている。

「昨日案内した範囲内で過ごしていてと言ったばかりなのに、私がいないとわかればすぐ脱走ですか?まったく困ったお姫様だ」
言葉とは裏腹に、口元は笑っている。
「身体が…」
「動かないでしょう?眠りのまじないの香を吸わせたから、あと数分は動かないでしょうね。出かける前に眠らせておけばよかったんですが、何もしなくともうとうと眠ってばかりいるから、大人しくしているかと思って」
油断しました、と彼は前を向いて歩き続ける。
「…どこへ行くんですか?」
天井の感じから邸内だとはわかるけれど、昨日も今日も見たことがないエリア。

「祓い屋稼業の歴史が長いこの邸にはね、結構いろんな部屋があるんですよ」
穏やかな口調、人当たりの良い笑み。
「捕らえた妖を入れておくための地下牢もあれば、ある程度の格の高い妖怪を閉じ込めて置くための座敷牢も…」
ここの廊下は、窓がない…。

「口で言ってその通りにしていただけるなら、それが一番楽なんですが、楽だというだけで他に方法はいくらでもある。従順になるまで地下牢で教育してもいいですし、一生座敷牢で飼い殺しにしてもいい。そうですね、身重であれば逃亡もしにくいでしょうから、何度も犯して孕ませてしまうというのもいいですね」
ああ、やはり、この人は穏やかな口調なだけで、決して穏やかな人ではない。
「ああ、逃げても逃げなくても、抵抗してもしなくても、結局することは同じと思ってます?」
こちらの考えを察してか、言葉を続ける。
「見える子供を産んでいただくことが主たる目的なので、全くもってその通りなんですが、優しくされるか痛くされるかの違いは結構大きいと思いますよ」
薄い唇がゆっくりと弧を描いた。
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