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【夏目友人帳】海底の三日月

第2章 昏蒙のアリス 前編


「ひとまず今日は座敷牢にご案内しましょう。今後の身の振り方についてゆっくり考えてみてください」

着いた部屋も、窓がなかった。
10畳ほどの畳の部屋が格子で仕切られ、奥4畳ほどが座敷牢と呼ばれるエリアなのだろうか。
何故か奥にも扉が一つある。
格子の引き戸を開けて、座敷牢の畳の上にゆっくりと寝かされる。

「ん…」
私を寝かせて身を起こそうとした的場さんが途中で動きを止めた。
急に顔が近づいたので思わず右を向いて顔を逸らすと、左耳の耳たぶを指でなぞるように触られた。
「なんだ、ピアスか…。てっきり引き止められたのかと思いました」
耳元に自嘲的な囁き声を残して、彼が身を起こすとプツリとかすかな音がした。

「あまり使っていないのでごちゃごちゃ物がありますが、邪魔なら格子の間から出して下さい。昔は人を入れることもあったので、お手洗いは奥にあります。明かりはそこの紐で消せますが、全部消すと真っ暗になるので気をつけて」
的場さんは格子の外側に出て扉を閉める。
「どうやって外に出たのか気になるところですが、時間がないのでそれはまた後日ゆっくり伺います。ここはそう簡単には開きませんが、試してみたければどうぞご自由に」
話しながら南京錠の上に筆で何か書いていく。
書き終えると彼は、膝をついて格子から手を入れ、横になっている私の髪を一度だけ梳いた。
「もうすぐ動けるようになりますよ。明日の夕方には戻ります。それまでどうぞごゆっくりお過ごしください」
的場さんはにこやかに挨拶をして部屋から出ていった。
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