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【夏目友人帳】海底の三日月

第2章 昏蒙のアリス 前編


「Are you worried about my sister?(妹のことが心配なの?)」
「……」
返事はない。動きもない。
白面たちも動かない。
段ボール箱を一つ開けて、サンダルとピアスを取り出す。通学用の靴は玄関に置いてあるのか、見当たらない。
「Come back in my shadow.(私の影に戻って)」
段ボール箱にかざした手の影が、一瞬ゆらりと揺れた。

ピアスを付けて、サンダルを持って部屋を出ると、白面たちが黙ってついてくる。背も高いし、脚は速そう。
廊下を歩いてトイレに入る。白面たちはトイレの外にいる。
トイレの窓は人が通れるほどの幅はなかった。
トイレから出て、脱衣室に入る。白面たちは脱衣室の外に。
サンダルを持ってうろうろしているのに、彼らは行く手を阻もうとも人を呼ぼうともしないで、ただついてくる。
複雑な思考や推測ができないタイプの妖怪かもしれない。
白面たちを廊下に残し脱衣室の扉を閉めて、お風呂場の窓から外に出る。
3分ほど塀に沿って歩くと、片開きの扉がついた通用口があった。

結界があると言っていたけれど、薄い膜のように見える。妖怪用?人間用?
結界を越えて扉の取手に触れると、熱いような冷たいような痺れるような抵抗感。
扉は鍵がかかっているようだ。
結界に触ってしまったから、早くしないと気付かれる…。
周囲に視線を巡らせていると
「お嬢様、中にお戻り下さい」
渡り廊下に着物姿の細身の男の人が立っていた。
「外に…出たいんですが…」
こんな声では聞こえないかもと思いながらも、上手く声が出せなかった。
「そこは開きません。屋敷の中にお戻り下さい」

渡り廊下からこちらに向かって早足で歩いてくる男性に背を向けて、扉に向き直る。
扉の取手に左手の甲をかざして、
「_私達を通らせて_」
口に出したら、ふわりと溶けるように扉の周りの結界が開き、カチャっという音と共に扉が開く。
外へ出て
「_閉じて_」
と口に出すと、扉も結界も1秒で元に戻った。
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