• テキストサイズ

【夏目友人帳】海底の三日月

第2章 昏蒙のアリス 前編


2分ほどして、こちらに向かってくる足音。
「月代さん、起きていますか?」
返事をしないでいると、5秒後に扉が開いて、的場さんが部屋を覗き込んだ。
「ああ、起きていたんですね」
「はい…」
返事をしなかったことへの気まずさと、銀三郎が姿を隠して室内にいることの緊張感で、そわそわしてしまう。
「ずいぶん眠っていましたが、具合が悪いんですか?」
「そうでもないです」
曖昧な返答をしてしまった。
「…何か変わったことはありませんか?」
何か気づいたのだろうか。こちらをじっと見てから訊かれた。
「何か?」
「…まあいいか。また出かけてきますが、一応ここに式を置いていくので、昨日案内した範囲内で過ごしていて下さい」
「……」
頷きともとれる形に下を向くと、的場さんは白い面を付けた背の高い妖怪2人を部屋に残して去って行った。

口のない白い面、白い着物の背の高い黒い妖怪。
「……」
立ったままじっとしていて、どこを見ているのかもわからない。
銀三郎もまだいる気がするけど…。
妖怪に不用意に話しかけるなとお母さんに言われていたけど、『式』というからには悪いものではないだろう。
「…段ボールは、どこに捨てたらいいんでしょうか?」
「……」
返事はない。
お話できないタイプの妖怪かもしれない。それならこのまま銀三郎に対応しても大丈夫だろうけど、主人以外とは話さないタイプの妖怪なら、銀三郎の存在がバレてしまう…。
『うちの猫が邸の中にいる』と的場さんに言えば、それで済むことだとはわかっている。
でも、銀三郎にはどこかへ行きたがっていると感じた。
/ 44ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp