第2章 昏蒙のアリス 前編
いつのまに眠ったのか、起きたら次の日の午後1時36分だった。
12時間以上寝てしまった。
誰かが上掛けをかけてくれたのか、昨夜はなかった薄手の布団を握って寝ていた。
机にはほんのり温かさの残っている食事。
『昼食です。起きたら召し上がって下さい。食器は下げに参りますので、廊下に置いて頂ければ助かります。』
女性らしい文字でメモが添えられている。
ご飯を食べなければ…
荷解きもしなければ…
段ボールはどこに捨てればいいんだろう…
学校、調べなければ…
偏差値とか、校風とか、口コミとか、見て決めるの?
妹が心配…
でも、どうにもできない…
ああ、何もしたくない…
後ろでカサリと音がした。
振り向いてみても、目を凝らしても、何も見えない。
邸には結界があると昨日的場さんが言っていた。
思い当たるのは、うちの猫しかない。
誰にでも見える姿にも、誰にも見えない姿にもなれる、銀色の猫。
「銀三郎?」
たしかに生き物の気配はあるのに、姿は見えない。
「銀三郎?」
もう一度声をかけると、ふさふさとした白銀の尻尾がくるりと円を描いて消えた。
銀三郎がいる!
「ねぇ、銀三郎…」
声をかけても返事はない。