第9章 episode.9 君が好きだよ。
episode.9
君が好きだよ。
(Shuichi side)
正直、彼女への想いを隠すことで必死だった。
ユリ相手だと、想いが止まらなくなって暴走する。自分で制御できない感情に振り回されて…自分が自分でないような気すらしていた。
気を抜いて、彼女にいつのまにかキスをしていた時には……流石に、このままではいけないと悟った。
なんとしてもこの思いを隠し通さなければ。そう決意して、ポーカーフェイスでいることに注力しすぎて…
今度は彼女が体調を崩したことなど気付きもしなかった。
洞察力には長けているほうだと自負していたが。
惚れた子相手だとこんなにも盲目になるものかと、己に呆れ果てた。
…いや。
とにかく今は、自分に失望している場合ではない。
彼女の体の心配だ。
先程医者が到着した際には、熱にうなされてうわ言を言っている程だった。
女の医者を呼んで正解だった。誰かもわからずに、医者を俺と勘違いして「手繋いでて、しゅうさん」「いかないで」などと言って医者に手を伸ばしていたからな…
きっと海外に出てきて、時差や環境の変化で弱っていたのだろう、と医者は言っていたが。
時差や、環境の変化程度…俺にとっては大したことではないが、彼女はそんなことであっさりと体調を崩すだなんて。
「…か弱い子猫だ」
するりと頬を撫でる。
治療を受けたおかげで、ようやく落ち着いたのかスヤスヤと眠っている彼女を暫く見つめていた。
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彼女の目が覚めるまで、できるだけ側にいてやろうと思い…書斎から本を引っ張り出してきて読みながら時間を潰して過ごした。
そして昼時になり、そろそろ少し腹が減ったな…と思い立った頃。
そういえば…彼女が目が覚めた時に食べれるものがないな。胃に優しくて、少しでも栄養がつくものがいい。準備するか。
そう思って、キッチンに向かった。