第8章 episode.8 熱
「ユリ?」
「あ…シュウさん。おはようございます」
私を見つけるや否や、シュウさんは慌てて火を止めて、急いでこちらへやってくる。
「大丈夫か?立てるようになったのか?」
「あ、はい…おかげさまで。少し楽になりました」
「よかった…」
ホッと息をついたシュウさん。
彼は、先程取ったワイヤレスイヤホンを右手に持ったままだったようで。
そのイヤホンから『おーい。』と先程声を荒げていた男性の声がした。
「あっ、降谷くん悪い。そちらは夜中なのにすまなかった。助かった。では」
『えっ?おい』
ブチ。
シュウさんは強引に通話を切ってしまった。
「い、いいんですか…?そんな適当に切って」
「付き合いの長い友人だ。問題ない。それより君だ…無理をするな。とりあえず座れ」
シュウさんはそっと私の背に腕を回すと、支えるようにして私をダイニングの椅子に導いた。
やっぱり四脚あったうち、みっつしかなくて。
先程寝室にあった椅子は、ダイニングのものだったんだなぁと勝手に答え合わせをした。
「君が寝ている間にドクターが来てな。診てもらったらやはり風邪だった。症状が少し重いそうだから、しばらくはゆっくり休みなさい」
「はい…ありがとうございます。すみません、迷惑をかけて…」
「迷惑だなんて思っていないさ。」
いつぞやも同じことを言っていた。
…ホント、優しいな…シュウさん。
「そうだ。先程電話していた友人は料理上手なヤツでな。教えてもらって粥を作ってみたんだ。食べられるか?」
お粥…そんなことまで。
本当になんて感謝を伝えれば足りるのか分からないくらいだよ…
「ありがとうございます…是非いただきます」
「ああ。もう少しでできそうだ。持っていくから待っていろ」
シュウさんはキッチンに戻って、ふたたびコンロに火をつけていた。
私のために一生懸命なシュウさんを見ていると、何故かホワホワと心が温まる気がして。
キッチンのカウンター越しに彼を見つめながら、自然と頬が緩んだ。