第9章 episode.9 君が好きだよ。
『つい先日、出会いもない的なことを言ってたくせに。…まあいいや。で?急に教えろと言われましても、材料も何があるのか不明なままでは教えようがないんですが。それに、僕仕事中ですし。時間もないんですけどね。』
はあ、とため息をつく降谷くん。
…相変わらずよく喋る男だな。
『まあ、でも仕方ないですね。弱った彼女にいいとこ見せたいってとこでしょうか。協力してあげますから冷蔵庫の中身とか見せれます?』と…チクリと余計なことまで言われたが。
その後、ビデオ通話に切り替えて冷蔵庫の中身を見せれば、今度は『うわ、彼女さん料理ちゃんとする人ですね。食材がしっかり手を抜かずに揃えてある』と感心されてしまった。
彼女、彼女、と言われるのは…こそばゆい気もしつつ、悪い気はしていなかったが。
だが結局そういう関係には至っていないので、「彼女ではないよ」と否定したところで今度は『じゃあなんなんだ、自宅で看病してやるなんて一体どんな関係なんだ』と根掘り葉掘りだった。
あまり詳細は話さなかったが…事情があり、うちに置いているだけだと、アンソニーに説明した時と同じように説明したが。
降谷くんはそれでも察したらしい。
『片思いでも、想う相手ができただけ羨ましいですよ』
「…そんなんじゃないと言ってるだろ。妹みたいなものなんだ」
『ふん。戻ってきたら詳しく話してもらいます。誤魔化したって無駄ですよ』
「…全く。公安は恐ろしいな」
そんなやりとりの末、ようやく粥の作り方を教わって。
教わっている間、俺がワンパターンの料理しかしてこなかったこともあり、想像以上に手際が悪くイラつかせてしまったりもしたが…
なんとか出来上がったところで。
すっかり立って歩けるようにまで回復したらしいユリが、ダイニングに姿を現した。