第9章 episode.9 君が好きだよ。
冷蔵庫を開けて、ぐるりと見てみるが。
「…何を作ればいいんだ」
ここ暫く体調を崩すことがなかったので、急には思い当たらない。
更には、ユリがここ数日管理していた冷蔵庫に、何があるかすら把握していなかったもので。現在の冷蔵庫の中身で何ができるのかすら分かりかねる状態だった。
簡単な出来合いのものでも買いに行くか?…いや、彼女をひとり置いて買い出しに出かけるのもまだ心配だしな…
それに、弱っているのなら…海外の味よりも母国の味が食べたいところだろう。
「…仕方ない」
料理上手な友人でも頼るか。
そう考えて、思い至ったのが降谷くんだった…というわけだ。
向こうは夜10時頃だというのに、『まだまだ仕事中なんですが、一体何の用ですか。』と開口一番に言い放った降谷くん。カタカタと音がする。どうやらパソコンに向かった状態で電話に出てくれたようだった。
「ああ。日本人は風邪を引いた時に何を食べるのか教えて欲しいんだが」
『……はい?』
俺が唐突に予想だにしないことを言ったもんだから、素っ頓狂な声をあげていた。
「だから。風邪だよ。風邪。」
『……風邪?…といったら…まあ。お粥、でしょう…』
よくわからないけど、とりあえず答えてみた。と言った雰囲気だった。
「粥か…。確かに言われてみればそうだな。悪いが簡単に作り方を教えてくれないか」
『…体調崩したんですか?』
「いや、俺ではないんだが。」
降谷くんは少し考え込むように黙ってから…。
『赤井、今ワシントンの自宅ですか?』
「ああ。まあ。FBIが用意したセーフハウスだがな」
『ん…?ああ。ははーん。さては赤井、抜け駆けしましたね』
抜け駆けとは聞こえが悪いな…