第8章 episode.8 熱
誰…?
誰かいるのかな…?
なんだかソワソワしすぎて我慢ならなかった…
意を決して、そっとリビングのドアを開ける。
すると、今度は鮮明に聞こえるシュウさんの声。
「…で、次は?ああ。それならあるにはあるが。だが降谷くん、調味料を量るものがない。どうしよう」
…ふるやくん?
てか、話し相手の声は聞こえないので多分電話ぽい。
それから…相手の名前の響きや、話してる言葉が日本語なので。多分相手は日本人かな?
男性なのか、女性なのかすらわからないけど…
「おお…なるほど。あとは10分弱火で煮込むだけ、と。案外簡単だな。ん?…なに?焦げるのか、これ。」
…何か作ってる?
そっと声の方へ向かえば…
シュウさんはキッチンに立っていた。
普段はしていない、ワイヤレスイヤホンを片耳につけながら。
いつも着ている皮のジャケットは脱いで、ネイビーのシャツを乱雑に腕まくりして。
眉間に皺を寄せながら必死な様子。
そんな、いつもと違う姿のシュウさんが珍しくて。
しばらく彼をボンヤリと見つめていた。
「…降谷くん降谷くん、かき混ぜていたら倍になったんだが…いや、米が。いやいや、早く言ってくれ。作りすぎたぞ。あの子はちっちゃいからこんなに食えんよ…」
シュウさんが、ワイヤレスイヤホンを慌てて取る素ぶりを見せたと同時。
『しらねえよ!』という声が盛大に音漏れして聞こえた。
通話の相手は男性の声…だった。
ホッと胸を撫で下ろす。
…ん?
なんで私今そんなことでホッとしたんだろ…
自分自身よくわからず、思わず首を傾げたところで。
ふいに顔を上げたシュウさんとパチリと目が合った。