第8章 episode.8 熱
…次に目が覚めた時には、寝室に1人ぽっちだった。
「シュウさん…?」
幾分か楽になった上体を起こして、ぐるりと寝室を見渡してみる。
壁掛け時計はすっかりお昼の12時頃を指していた。
…4時間くらい寝ていたのね。
ベッドサイドのテーブルには、ペットボトルのミネラルウォーターと、何やら錠剤のお薬がいくつか。
市販の薬には見えない。…もしかして寝ている間にお医者さんが来てくれたのかな?
そして、ベッドの横に椅子がある。
この寝室には椅子はなかったはず。よくよく見てみると、ダイニングの椅子のような気がした。
…シュウさんが運んできたのかな?
椅子の上には洋書が一冊、無造作に置いてあった。
「ざ、しぇあろっく…ほるめす……」
タイトルを読み上げようとしたけど、わからなくて。
でも…なんか似たような横文字を知っている気がしたので、諦めずにもう一度違う読み方で読み上げてみれば。
「しゃあ…ろっく………あ。シャーロックホームズ?」
…流石に知ってた。読んだことはないんだけど。
有名なミステリー小説、ということくらいはわかる。
多分これもシュウさんのものだよね。
5日程この家にお世話になっているけれど、隅から隅まで掃除をした中で、こんな本…というより、本どころか無駄なものひとつも置いてなかった気がする。
書斎から持って来たのかな?
……考えても答えは出ないので、私はとりあえず寝室に増えた物のことは一旦置いておくことにした。
さて。シュウさんはどこにいるんだろう。
「よいしょっと…」
まだ体は万全じゃない。
力も入らないし怠さはまだまだ抜けてない。
でも、先程よりは楽になっているみたい。
どうにか立って歩けそうだったので、ベッドから降りて、ゆっくりと寝室を出てみた。
すると…リビングやキッチンのある方からシュウさんの声がした。
誰かと話してる。
恐る恐る近づいて、そっとリビングのドアに耳を近づけた。
『ーーで、ーーって?、ああ、…わからーぞ』
シュウさんの声だけが僅かに聞こえるけれど、ドア越しなので何を話しているかまでは聞き取れなかった。