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キューピッドはスーツケース【赤井秀一】

第8章 episode.8 熱





シュウさんが寝室を出ていき、約束通りにすぐに戻ってくる。

なにやら電話をしながらのよう。
相変わらず流暢な英語で、誰と何を話しているかわからないけど…。
通話を続けたまま私のそばに来て、ミネラルウォーターのペットボトルを枕元に置いて。

「一度、体を起こせるか?」

スマホを耳元と肩に挟み、通話を繋いだままの様子で、私に手を伸ばしてきた。
大きな手が私の背中に回って、ゆっくりと上体を起こされる。
片腕なのに、軽々と私の体を支えてみせる。
力の抜けた人間は、普段よりも重たくて大変だろうに。そんな素ぶりは全く見せない。
…服越しに触れただけでもわかる、腕の筋肉…本当にすごいんだな。なんてよそ事を考えていた。


「とにかく水を飲め」

キャップを開けたペットボトルが差し出される。
シュウさんが支えてくれながら、やっとの思いで水分補給を済ませた。

体に力が入らなくて、ふらふら。
指先は痺れていた。
また体を横にするのも、億劫な状況。

しばらく、誰かと通話をしていたシュウさんが、ようやくスマホを耳元から離した。
通話が終わったのね。

「俺の職場のドクターを呼んだ。今から来るからもう少し辛抱してくれ」

職場のドクター…?
普通の職場に医者がいるだろうか。
相当、大きな会社か…
体調管理がとっても大切な…そう、例えばスポーツ選手とかが所属している会社…とかでもない限り、医者なんている気がしないんだけど…。
これもアメリカだから…なのかな。
さっぱりわからない。
本当にシュウさんって何してる人なんだろう…ますます分からなくなった。

でも、これ以上考えるような元気もなくて。
気になることは山盛りあったけれど、素直に小さくありがとうございます、とだけ伝えて私は目を閉じた。

しばらく、優しく髪を撫でるシュウさんの手にうっとりしているうちに…体の辛さが少しだけ和らぐような不思議な感覚がして。あっという間に夢の中だった。
やっぱり、彼の手は魔法でも使えるんじゃないだろうか。
なんでこんなに彼に触れられると心地よくて、安心するのか…不思議でならなかった。


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