第8章 episode.8 熱
目が覚めて1時間くらいかな…私はベッドの上で動けずにいた。
ウトウトしつつ、辛くて寝れない。
そんな時…
ガチャ、と玄関が開く音がした。
シュウさんだ…!
帰ってきてくれたみたい…よかった…
シュウさんの足音がだんだん近付いて、そっと寝室の扉が開いた。
「…ユリ、ただいま」
私が寝ていると思ったらしい。
シュウさんは扉を少しだけ開けた状態で、寝室には入らずに微かな声で帰宅を告げた。
「…しゅう、さんっ…げほ、けほっ」
「ん?起きているのか?」
「…たすけてください…」
カラカラな喉で、必死に助けを求める。
私の異変に気が付いたのか、彼はドサリとバックを落とすように床に置いて、慌てて駆け寄って来た。
「ユリ?どうした」
「…けほっ、げほ、」
答えたくても咳が出て止まらない。
相当、重い風邪にかかってしまったようだった
「風邪でも引いたか?」
ギシ、とベットが音を立てる。
おそらく彼がベッドに腰掛けたんだろう…
もう、発熱のお陰で目も潤んで耳もぼんやりとしていてよくわからない。
ぴと。外から帰ったばかりだからなのか、いつもの温かさと違い、冷たい手のひらが私の額に添えられて。ゆっくりと、確かめるように頬を伝って首元まで辿りついた。
「相当な熱だな、おい大丈夫か」
力なく首を横に振る。
「少し待て」
シュウさんが、そう言って私から離れようとした。
その手を咄嗟に掴む。
なに…してんだろう、私…
「しゅう、さん…」
でも、不安に押しつぶされて弱った心は、知らない間に私の本音を掘り起こす。
私は、想像以上に彼を信頼して、心を開いていたらしい。
「そばに、いて……いか、ないで…げほ、げほっ…」
シュウさんは何も言わずに、頭を撫でてくれて。
私を安心させるように、ひときわ優しい声で。
今まで聞いたことがないような…そう、まるで愛しい人に伝えるような柔らかい声で。
「…安心しろ。俺がついているから。水を持ってくるだけだ。大丈夫。どこにもいかんよ」
そう言って、私の額にそっと口付けを落とした。
…これも、挨拶みたいなもの…?
うーん…わからないけど…
もう、なにも…考えられないや…
「すぐ戻るから。少しだけ我慢してくれ」
よしよし、と頭を撫でてから、彼は寝室から出ていった。