第8章 episode.8 熱
うちに帰ってくるや否や。
シュウさんってば、また書斎に引きこもりになってしまった。
お仕事忙しいんだろうな…。
またそのまま椅子で寝てしまわないといいけど。
とりあえず夜ご飯の支度でもしようかな。
今日はじっくり煮込んだ野菜スープを作るつもりだったので。
早めに準備を始めたくて。
エプロンをかけて、キッチンに立つ。
けれど、なんだかそのままぼーっとしてしまった。
「……ふぅ。」
つい漏れるため息。
そして、そっと自分の唇に指先で触れた。
先ほどのキスの感触が…残ってる。
軽く触れるだけの、本当に挨拶みたいなキスだったけれど。
…感触も、唇の温かさも…知ってしまった…。
「気まずい…」
彼からしたら大したことじゃないのかもしれないけど…私にはとても衝撃的すぎる出来事だった…
考えすぎて…耳が熱い。
なんだか体全体が熱っている気がした。
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夜になり。
夕食の支度が整った。
今夜のメニューはじっくり煮込んだ野菜スープと、ハンバーグ。
「…さてと。」
気まずいけど…ずっとこのまま、というワケにもいかないもんね…。シュウさん呼びに行こう。
書斎の方に向かうと…丁度書斎の扉が開いた。
中から出てきた彼は、タバコをとマッチを手にしていた。
「…あの、ご飯できました…けど…」
恐る恐る、声を掛けると…
「ああ…ありがとう。一服したら行く」
そう言って、ベランダに向かっていった。
…うーん、どうしよう。
やっぱり気まずい気がする。
シュウさんの方はどう思っているかわからないけど。
私は変に意識してしまっている気がする。
このままでは会話が弾みそうにないんだけど…一緒にご飯食べれるかしら。
不安だなぁ、と思いながら、一緒に食卓を囲んだ。