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キューピッドはスーツケース【赤井秀一】

第7章 episode.7  壊れた鍵





これで本当の名前が知られてしまったな。
まあ、フルネームではないので困ることはないだろうが。

「…満足したか?」
「はい!」

明るく返事をしながらも、俺が目を開けていいと言っていないので、彼女は律儀にまだ目を閉じていた。

まるでキスを待っているかのような顔だな。

まぁ、そうさせたのは俺なんだが…そんな表情を間近で見ていたらな。


つい…。
もう、本能には抗えなかった。


ちゅ、っと…小さく音が鳴る。



俺の体は勝手に動いて、勝手に彼女に触れるだけのキスをしていた。

自分自身、後になって「やってしまった」と頭に過ぎる。
慌てて体を離したが、時すでに遅し。

彼女は嬉しそうに微笑んでいた顔を一変して、慌ててパッと目を開けた。そして、パチクリとまんまるに目を見開いている。

「…えっ…?」

…まずい。
実はこれが初めてではないのだが…あの時はユリがぐっすりと寝ていたので…。彼女が知るはずもないだろう。

今のは…流石に…。


「えっ、ええっ…あ、えっ?」

そうだよな。
急にただの知り合ったばかりの同居人にキスされてみろ。言葉も出ないだろう…

「…いま、何…しま、…した…?」

恐る恐る口元に手を添えた彼女は、頬も耳も真っ赤になっていた。
何をしたのかと聞きつつ、わかっているのだろう。

言い逃れのしようが無い…。

「…キス、だな」
「です、よね…」

なんで?と言わんばかりの揺れた瞳が、俺を見上げた。



…さて。

どうしたものか。



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