第7章 episode.7 壊れた鍵
「おいしい…!」
キラキラと輝く瞳。
ユリは感動したように、手にしたクロワッサンを見つめていた。
「うん。うまいな」
ここはパン屋からうちに戻るまでの途中にある、広々とした公園。
折角だから景色のいいところで食べたいと彼女が言ったので、ベンチに隣同士で掛けて先程買ったパンを一緒に食べることにした。昼時だし、昼飯も兼ねて。
外は寒いが、少し歩いたことと、ついでに買ったホットコーヒーのおかげで苦ではない程度の寒さになっていた。
「チーズたっぷりにしてよかった!すっごく濃厚!」
本当に嬉しそうな彼女の様子に、つい頬が緩む。
「気に入ったようだな」
「はい!また行きたい……って言っても、もう気軽に来れない距離なんですよね。」
残念、と眉尻を下げていた。
確かに…。日本からわざわざクロワッサンの為だけにアメリカに来ることもないだろうし。
例え観光などで再びアメリカに来ることがあっても、観光地でもなんでもない、ただの住宅地域だからな…
中々来ることはないだろう。
もう次はないと思ったほうがいいかもしれないな。
彼女は、「大事に食べよう」と言いながら、味わうようにゆっくりと食べていた。
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「…何が聞きたいんだ」
お互いにクロワッサンを食べ終わった頃。
少しぬるくなってしまったコーヒーを2人で飲んでいた時。
俺は、唐突にそう切り出した。
なんのことかと言わんばかりに彼女は首を傾げる。
「先程言っていたろう。俺に聞きたいことがあると」
「えっと…ああ。え?いいんですか…?聞いても」
「…答えられることなら、だが」
先程は動揺して曖昧にしてしまったが。
この子が俺の何を知りたがっているのか。シンプルにそれが気になった。
彼女は遠慮がちに口を開く。
「えっと…シュウさんのお名前。」
俺の名…?
そろそろ本名を教えろ、ということだろうか