第7章 episode.7 壊れた鍵
数分後。
俺とユリは連れ立って外に出た。
空は曇り模様で、いつも以上に肌寒い。
玄関を出た瞬間、彼女は俺の横でふるりと肩を振るわせた。
「さむっ…」
途端に肩を抱いて引き寄せたくなった。
つい、手が伸びそうになるのを…必死に堪える。
誤魔化すように、彼女から視線を逸らして。
俺はさっさと歩き始める。
「行くぞ。歩いたら少しは体も温まるだろう」
「は、はいっ」
パン屋は…セーフハウスから徒歩5分程の場所にある為、わざわざ車は出さずに歩いて行くことにした。
少しの距離だし、さっさと歩いてしまえばすぐに終わって帰れる。そんなふうに思っていたが…。
彼女が横から俺をチラチラと見上げて、何かを話したくてウズウズしているような空気が伝わってくるので…耐えきれずに。
「…なんだ?何か聞きたいことでもあるのか?」
短く尋ねながら、横を歩くユリを見下ろす。
すると、彼女はパッと笑顔になって。
「えっと…シュウさん今夜もお仕事ですか?」
「ああ、そうだが。」
「じゃあ…お仕事に行く前に、ご飯食べていきますか?」
「……ああ。うん。頼めるのなら」
「よかった…」
そうホッとしたように言った。
よかった、って…。なんだ?
「シュウさん、なんか昨日からちょっと雰囲気が違うというか…なんだか不思議な感じがしたので。元気がないのかなって思ってたんです。ご飯もろくに食べてないし。」
やはり…気にしていたか。
「でも食欲あるのならよかったなって思って」
そう言って、彼女はまた花のように優しく笑った。
彼女は…純粋な気持ちで俺を心配してくれている。
それがなんだか嬉しくて。だが、嬉しい気持ちと同時に少し情けない気持ちにもなった。
いい年して、久々に恋をした相手への接し方がわからなくなって…おかしな態度をとってしまった上に。
5つも年下の子に気を遣わせてしまうなんて、情けない…。
「……少し仕事でピリついていた。すまない。もう平気だから安心しろ」
嘘でもいいから、彼女を安心させたくて。
仕事のせいにして誤魔化した。