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キューピッドはスーツケース【赤井秀一】

第7章 episode.7  壊れた鍵






目が覚めたばかりでスッキリしない頭を動かす為にも、顔を洗おうかと思い、洗面所に向かう。
ユリが斜め後ろを歩きながら着いてきていた。

「シュウさん、書斎で寝ていたって…ソファか何かあるんですか?」
「いや、椅子だ。おかげで体が痛い」

ぐるぐると肩を回しながら廊下を進む。
彼女は相変わらずトコトコと着いてきた。

…そんな…足音すら。

「かわ…いい…?」

ついつい心に浮かんできた言葉を口走る。

まずい。
非常にまずい。
重症だ。

「シュウさん?どうかしました?体痛いならマッサージしましょうか?私、よくお父さんにやってたから得意ですよ」

えへへ、と笑いながら後ろから声をかけられたが。

「…いや、いい」

素っ気なく返すことしか、できない。

「…そうですか。あ、朝ごはん作ります!シュウさん何か食べたいものありますか?」
「いや。今は腹が減ってないんだ。」

目も合わさず、今は優しくもできない。
…すまないな。ユリ。

普通に接する為には、少しだけ時間が必要そうだな。

「…悪いが今日は、仕事の調べごとで忙しくなりそうだ。うちにいる間は書斎に籠る」

素っ気ない声が出る。
きっと察しのよい君は、俺の雰囲気がいつもと違うことなど既に気付いているのだろう。
チラリとユリを見れば、僅かに不安そうな表情で首を傾げたのが視界の端に映った。

少しだけ、微妙に気まずい空気が流れたが…

「…わかりました!お仕事頑張ってください。あ、コーヒーだけでも淹れましょうか?」

それでも彼女はいつも通りに返してくれた。


「ああ…ありがとう」


パタン、と洗面所の扉を閉める音が…寂しく響いた。



この日は、余計な感情を忘れていたくて。
とにかく彼女との距離を置こうと思い、書斎に籠っていた。



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