第7章 episode.7 壊れた鍵
真っ暗な夜の闇の中。
俺はひっそりとうちの中に入る。
足音を立てないよう、細心の注意を払った。
だが、彼女のことだからまだ起きているかもしれない。
悪夢が怖くて眠れないと言って昨夜も夜更かしして朝を迎えていたからな。
今夜もそうなんだろうか。
そうだったら、早く帰ってやらないと。
そばにいてやらないとな。
なんて思いつつ、玄関を通り抜け、廊下を進みながらリビングの方を見やる。
するとやはり。
…リビングのドアから光が漏れている。
明かりがついているということはまだ起きているのか。
とりあえず、俺はリビングのドアを通り抜けて。
ライフルバックを書斎に片付ける。
その際ついでに寝室を覗いたが、やはり彼女はいなくて。
まぁ、明かりがついていたリビングだろうな。と思いながら。
そっと中に入り、ユリの姿を探した。
「すぅ…すぅ…」
彼女はソファで眠っていた。
電気もつけたまま、倒れ込むような寝姿でいるのを見ると…おそらく寝落ちしてしまったんだろう。
ゆっくりとソファで眠る彼女に歩み寄り、彼女の寝顔を見つめた…
するりと頬に指を滑らせる。
それでも彼女は目を覚まさなかった。
随分深い眠りについているようだ。
それにしても…
…穏やかな寝顔じゃないか。
「…悪夢に…勝てたんだな」
つい、ポロリとこぼれるように呟く。
なんだか少し、寂しい気もしたが。
よかったな…。
これでもう、1人で寝れるな。
つまりもう…
俺はもう、君のそばにいなくたって平気ということ…だな。
「………っ」
心の中に何かが渦巻く。
言いようのない寂しさ。
この子が俺から離れていく準備を着々と進めているような感覚がして、とてつもなく切なくなった。
…子供が親元を離れていく時の親の気持ち、みたいなものだろうか。
……いや。
違うな。
もう、わかっているんだろう。
心の底に鍵をかけても、自分自身気付かないようにしていても…
もう、膨れ上がった感情は鍵をぶち壊して溢れてきている。
…そうだな。
俺の彼女への感情は、親心に似たものではない。
友情でもない。
ただの…恋情だ。