第7章 episode.7 壊れた鍵
…関係を持ってしまったら最後。彼女は暗い闇の世界に足を一歩踏み入れることになる。
そんなことには、させたくない。
それに、今彼女と関係を持ったなら。恋人に振られて傷付いている心に漬け込むような状況になる。
そんな格好の悪い真似はしたくはない。
彼女だって望んでいないだろうからな。
たったの10日間の関係…それでいいんだ。
「…あと数日で彼女は日本に帰る。それでさよならだ。それ以上はないさ」
「そうなのか?引き止めないのか?」
「しないな。」
「子猫ちゃんの方に気持ちがあったとしても?」
「…ああ。終わりにするつもりだ」
そんな俺の言葉に、アンソニーが深くため息をついた。
ハンドルを握りながらも、やれやれと言ったような雰囲気で。
「シュウ。もし子猫ちゃんが“ごく普通の一般人の子だから”という理由でそう言っているなら。間違ってるぜ」
アンソニーが言いたいのは、おそらく…
そんなことで諦めるな、ということなんだろう
まあな。
確かに、それを理由に関係を持つことを躊躇していては、いつまで経っても恋人なんてできないな。
同業の女しか受け入れられないだなんて、道を狭めているから。俺はいつまで経っても愛だの恋だのとは無縁なんだろう。
…でも。
それであの子を危険から遠ざけられるなら。
「それでもいいさ」
その晩、仕事を終えてセーフハウスへ帰るのは深夜3時を過ぎた頃だった。