第7章 episode.7 壊れた鍵
episode.7
壊れた鍵
(Shuichi side)
アンソニーの車に乗り、仕事の目的地に向かっていた。
空は雲が分厚くて、今日は雨だろうな。となんとなく思いながら。
「シュウ、突然訪ねて悪かったな」
アンソニーが運転をしながらそう言う。
「…いや。揶揄いに来ただけなら許さんが、仕事でならまぁ許してやる」
窓の外の景色を眺めながら答えた。
「にしてもシュウ、あの子はお前の女じゃないと言ったが。」
「…なんだ」
「気はあるんだろ?お前は。あの子がどうかはわからないけどさ。子猫ちゃんのこととなると、お前の態度は異常だったぜ」
「………。」
…そうなんだろうか。
いや、今までに出会ったことのないタイプの女だから。
一般人の、明るく平和な世界しか知らないような子だから。
だからこそ、過剰に庇護欲が出るし、いつもより気にかけてしまうだけだと思いたかった…んだが…。
だが俺も、もう餓鬼じゃない。
自分で自分の心の底に鍵をして、見ないようにしているだけで。
本当のところは…わかっているんだ。
気付いてはいけない、と自分を押し込めているだけだ。
実際…か弱く不安そうな表情をした彼女を見て、何だか胸がぐっと締め付けられるような感覚がした時。暴走しかけた心が、彼女の髪の甘い香りに誘われて。先程別れ際に髪に口付けてしまった。
俺の意思とは関係なく、本能的な行動だった。
…その時うっすらと気付いたんだがな。
自分が彼女に対してどんな感情を抱き始めてしまったのか。
たったの数日、一緒に暮らしているだけなのに。
好みのタイプではないはずなのに。
どこに惹かれたのかもわからないが。