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キューピッドはスーツケース【赤井秀一】

第6章 episode.6  キスなんて





そしてなぜ、元彼を忘れていたことに気付いたかというと…

時は30分ほど前に遡る。

夜の22時。もう夜も更けた頃に…
とある人からスマホにメッセージが届いた。

「ユリ。久しぶり。この前は、せっかく会いに来てくれたのに、追い返してキツイこと言ってごめん。新しい彼女ができたのは事実で、ユリには黙っていて申し訳ないと思ってました。謝りたい。今どこにいる?まだアメリカにいるのかな。今更で申し訳ないけど、1人で大丈夫か心配しています。連絡ください。」

元彼からだった。

…今更心配されたところで、どう接していいかわからないし。なにより、会って復縁できるわけでもないだろうし。
惨めな思いをするだけなら、スッパリこれっきりにしなきゃ。忘れなきゃ。そう思って…

「アメリカにいるけど、1人じゃないよ。知人を頼っているので心配いりません。今までありがとう。」

とだけ返した。

その後の返信はなかった。



その時、「あ、そういえば今日元彼のこと考えてなかったな」と気付いたんだけど。

たぶん、シュウさんがいなければ…こんなに早く元彼のことを忘れることはなかったと思う。
まだ完全に忘れた訳ではないけれど。
でも、確実に立ち直りは早いと思う。

もし今頃1人だったら…
いまだに塞ぎ込んで、落ち込んで、しくしく泣いて。
思い出の元彼に縋っていたと思うから。

やっぱり、シュウさんに拾われてよかった。
シュウさんに出会えてよかったな。
彼のお陰で強い自分でいられる気がする。
空っぽな心が温まる気がする。
何から何まで感謝だな。


…うん。

辛くない。


もう、悪夢は見なくて済むかもしれない。





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