第1章 episode.1 重なる偶然
ワシントンに着いて、俺はすぐさま仕事に追われた。
しばらく今回のターゲットに関して調べたり、一緒に行動する捜査官と打ち合わせをしたりしていた。
久々の時差に、少し疲れの色が色濃く出る。
とっくに夜も更けてしまった。
「シュウ、大丈夫か。今日はこの辺にしておくか?」
今回、俺とともに行動するFBI捜査官のアンソニー。
彼はこちらに妻と幼い子供がいることもあり、ずっとアメリカ勤務だ。
「ああ…そうだな。そうさせてもらうよ。ところで俺の車は?」
前回の、アメリカでの任務の際に…
実はこちらに置いている愛車を大きく破損してしまって。
日本にいる数ヶ月の間に修理をしてもらっていたんだが。
「ああ。それなら修理工場が近場に回しておくって言っていたよ。…というか。忘れてた。そういえば空港のパーキングに入れておくって言っていたような。最初に言えばよかったな。…よかったら送るぜ?」
「そうか。では頼む」
アンソニーの車で、俺は再び空港に戻った。
立体駐車場に直行し、修理業者が伝えてきた駐車場に真っ先に向かった。
「じゃあまた明日な、シュウ」
「ああ。宜しく頼むよ」
駐車場には、真っ赤に輝く俺の愛車があった。
マスタング。日本で乗り回しているものと同じ車だ。
まぁなんせ、逃走車を追ったり、車でのミッションも少なくない。それならば、乗り慣れた車がいいからな。
「さて…帰るか」
車に乗り込んで、俺はふう、と深く深呼吸をしてから。
ゆっくりと発信させた。
向かう先は、FBIが用意した借り住まい。
一般的な一人暮らしサイズのアパートメント。
そこまでの道は…と、駐車場を出て通りをぐるりと見渡した時だった。
「…ん?」
俺の車のヘッドライトに照らされた、あるものに目線が釘付けになった。
スナイパーなだけあって、目には自信があるんでな。
見間違えるわけがないと思うんだが…。
だとするとあれは…
「見覚えのあるスーツケースだな…」
大きくて真っ赤なスーツケース。
空港を出てすぐのベンチの横にそれは鎮座していた。